□総括
 
  錨以外という選択

 九頭竜川での今大会で、私にとって意外だった事実がある。それは上位4名がメインの針に錨以外を用いていたことだ。
 優勝した三嶋選手はオーナーの一角7.5号と8.0号をハリスをそれぞれ1.0号、1.2号でチラシとして使用した。大会を通じて錨は2組使っただけ。準優勝の松田選手はヤナギ針の使い手として有名だが、今回はキツネタイプとプロトンボの7.5号、8.0号をハリス1.5号で使用した。第3位となった塩野選手はダブル蝶針を使っていた。決勝ではその針が無くなってしまい、やむなく錨を使用した。そして惜しくも4位となった沓澤選手は、超短軸早掛けタイプとキツネタイプの7.0号と7.5号をハリス0.8号と1.0号の3本チラシとして使っていた。 

 三嶋選手のチラシ針 オーナー一角7.5号 ハリスはフロロ1.0号と細め 巻き付けも短い
 
松田選手のヤナギ針 これはオーナーのプロトンボ8.0号 ハリスはフロロ1.5号 巻き付けも多い
 チラシ、ヤナギと言うと、追いのきつい良型鮎をがっちり掛けて取り込むことに好適のイメージがあるが、今回の上位4名の選択理由は驚くほど共通していた。三嶋選手は「川(コケ)の状態がまだ完全ではなく追いが本格化していない。追い切らない鮎を掛けるにはリーチが長く、動きがしなやかなチラシが良いと思った。」と語った。しなやかさを演出するためハリスも細めだ。おもりを使う場合は鼻管から30pほど離れた所に付け、おもりの下でふらふらとさせるイメージで、おもりが「しなやかさ」を邪魔することなく効果を発揮するよう考えていた。
 塩野選手も縄張り意識がまだ低く感じ、追いの弱い鮎を掛けるためにダブル蝶針を使った。塩野選手はおとりの横の動きに野鮎の反応が出たので、終始それを意識していた。他にも八木沢選手や高木選手もチラシの愛用者だ。この事実を客観的に見ればチラシやヤナギ、蝶針などの有効性は否定できないだろう。

沓澤選手は渓流の名手だ。大会前、本人に「流れを見れば鮎の居場所も分かるのでは?」と聞いてみたところ、「渓流は川を見れば分かりますが、鮎は下見をしないと分からない」と言っていた。ここ九頭竜川も延べ5日間下見に入ったそうだ。徹底した釣り込みから導き出した答えが先のチラシだった。
 どんな針を使っても100%掛かる針は無い。予選リーグ首位の松田選手もケラレ、バレはあったそうだ。しかしケラレに至る前の確率はどうだったのか。三嶋選手は3本チラシで掛かったのは1段目(尾に近い方)が18%、2段目の針が80%、3段目は2%程度と語った。3段目はバランスを取るための吹き流しのイメージだ。2段目の位置は錨針の場合、リーチの外になる。この事実が「追い切らない鮎を掛ける」ことの証明になる。追い切らない=おとり鮎から離れた針におとりが触れる確率が高かった。これが今回の九頭竜川の鮎だったのだろうか。

 本命と目されていた多くの選手は九頭竜川の激しい当たりと良型に合わせて太軸の7.5号以上の針を使っている選手が多かったが、思う結果を得られていなかった。しかしながら優勝した三嶋選手より1匹多い最高釣果51匹を出した玉木選手は一角と忍の7.5号を4本錨で使用していたことも事実として報告しておく。

 チラシ、ヤナギについては非常に興味が湧いたので、大会後の10月1日、2日と長良川中央で試してみた。長良川も晩期になり、尚且つやや渇水気味で野鮎の警戒心が強い。鮎は多く見えるものの激しく追って
くる鮎は少ない。元気なおとりがスゥーっと泳げば簡単に掛かるが、少しでも弱ると一気に追われなくなる感じだった。それでもチラシ、ヤナギを使うと2段目の針が掛けてくれる。白い鮎でもおとりが替われば弱ったおとりに比べれば断然追われやすい。自然なカタチで泳げば追い気の弱い鮎も掛かってくる。鮎釣りの原則「循環」が良くなった。おとりが替わった直後や瀬で数少ない元気鮎に追われた時は錨に比べ掛かりは遅く感じたが、それ以上に掛かりにくい鮎を掛けてくれた実感が多く持てた。

 現代の追わない鮎を飼い猫に例えれば、猫にちょっかいを出すと最初は手をだして応えてくれる。しかしそれをあまりにもしつこくやり続けると爪を出したり、咬みついたりしてくる。この状態まで行けば鮎も簡単に掛かるのだが、問題は「手をだして応えてくれる」までの鮎だ。しつこくやるとどこかへ行ってしまう鮎。この状態の鮎を掛けるのはチラシやヤナギ、蝶針といったリーチが長い針が有効なのだ。鮎釣りに於いて針は永遠のテーマだが、「錨以外という選択」もこれからは重要な要素となるのかもしれない。
 
  ひたすら勝利のために

 今大会の本命でもあった小沢聡選手。ジャパンカップを4度も手にした男の凄さを第4試合で垣間見ることとなった。
 下流エリアBブロックの分流に入った小沢選手は、残り30分からパターンを掴み釣果を伸ばしていた。このポイントから検量場所までは川から上がってから8分ほどを要する。河川敷なので最悪竿は伸ばしたままでも帰ることはできるが、他の選手は試合時間を5分ほど残して竿を仕舞い戻っていった。
 小沢聡選手も残り3分となりおとりを引き戻した。これで仕舞うのだろうと思ったら引き船から違うおとりを選び出している。間に合うのか。帰着の猶予は終了後10分だ。その焦りを見せることなく小沢聡選手のバーサトルは狙った位置におとりを滑らせていく。試合開始時と全く同じ釣り姿。残り1分。ククッと竿先が曲がり2匹の鮎がタモに吸い込まれた。ここでホーンを聞き川を上がる。竿を仕舞う猶予はなく、
伸ばしたままの竿を担いで走り出した。本当に4試合6時間を戦い抜いた男なのか。検量に向かう男の背はとても大きく見えた。検量所にたどり着いた時には残り1分となっていた。小澤剛選手が「友釣無双」のなかで「初めの5分も最後の5分も同じ」と書いていた。頭では理解しても実行するには強靭な体力、精神力が必要だ。これがV4を達成した男の凄さなのだ。
 
勝敗の鍵

 今回、ジャパンカップを最初から最後まで見て、勝敗の行方が24名の選手全ての動きが九頭竜川の変化と絡み合って決まるのだなと感じた。何が勝敗を分けるカギとなったのだろうか。
どの大会、どの選手でもバレやラインブレイクなどのトラブルは必ずある。そして「あの1匹が」で惜敗を喫し悔しい思いをする選手は今大会でも数多くいた。その中で勝った選手は何が違ったのか。

 第3位となった参加選手中最年少の33歳、塩野選手は那珂川をホームグラウンドとする若手トーナメンターだ。2年連続で東日本セミファイナルを1位通過し九頭竜へやってきた。体格も比較的小柄な方で、歴戦の有名選手に埋もれて目立つ存在ではなかった。しかし、初参戦の2012年大会では15位に甘んじ、それで満足していたわけではなかった。時折見せる鋭いまなざしはその負けん気の強さを感じさせた。
 塩野選手の釣りはリミテッドプロMIの穂先より常に下流におとりを置いた引き泳がせだった。野鮎の反応が弱かったため、竿操作やおばせを使ってカニ横を演出し、おとりを頻繁に動かしていたのが印象的だった。塩野選手は見ていて良く釣っているな、というイメージは薄かった。しかし穴が無かった。2位、3位、2位、1位、3位、3位とまとめている。そしてすべてが単独なのだ。ジャパンカップのポイント制は単独で獲得するか、分けるかで0.5ポイントが変わってくる。1匹の差が0.5ポイントとなることも多い。塩野選手も1匹差で単独となった試合が3試合あった。
 厳しい試合が多い中、名手たちの多くが「おとりが替わったら攻めに転じようと考えた」と語り、攻めのタイミングが遅れたり、失ったりしていた中で、1匹を掛けに行く積極的に攻める試合運びが貴重な1匹となって結果に結びついたと考える。
 
 準優勝の松田選手は第4試合を終えた時点では優勝候補の最有力と見ていた。自身の判断がブレない迷いのない釣りに見えたからである。市販仕掛けに、伝家の宝刀2本ヤナギ針とV背針を常用し安定したおとりの動きが印象的だった。試合中の動きも反応があった場所を丹念に攻め、一度動いてダメならまた戻って掛けていた。濁りで状況が掴みきれない条件下では一か八かのポイント移動より、少しでも反応が出たところで探った方が確実だった。予選リーグ1位を3回、2位を3回という結果がそれを裏付けている。
 優勝した三嶋選手は最後まで気負いがまったく無いように見えた。全国出場を決めたインストラクター大会でも下見ができず当日の朝からの参戦だった。今回もお盆頃に下見を行ったが、その後は下見ができず、大会前日金曜日の夜に現地入りだった。この状況下では竿を出して判断せざるを得なかった。これが逆に先入観を持たずに釣りを組み立てることにつながり、今大会の難しい九頭竜川に一番適応できた結果になったのではないだろうか。
 攻め方は多種多様で、岸に立ちヘチを上飛ばし、目一杯立ち込んでベタ竿、立ち込み反対を向いて岸際等とどんどん攻めていった。

 面白いデータがある。2日目の第5試合、第6試合で決勝進出を狙う小沢聡、井上、玉木、三嶋の4選手は1日目を戦ったエリアでの戦いとなった。4選手とも前日の試合で結果を出していたので2日目となれば
有利な試合運びを想像したはずだ。しかし大きく減水した九頭竜川は状況が変わっていたのだ。水位は下がったにもかかわらず濁りはあまり変化が無かった。これが余計に選手を惑わせたのかもしれないが、三嶋選手以外の3選手はこれに戸惑い自滅してしまった。三嶋選手は1日目暫定9位で決勝進出は上位選手の脱落も加味しなければ叶わない状況で、なかば諦めていた。これが2日目も気負いなく普段の釣りができた理由だ。攻め続けた三嶋選手は総釣果50匹という結果に繋げ、見事逆転で決勝への切符を掴んだ。

決勝進出3選手ともが自分の釣りで攻め続けられたこと。これが「1匹の差」を生む鍵となった。
 
エピローグ

 今回、全国大会を最初から最後まで観戦し、勝敗の裏にはさまざまなドラマがあるのだなと知りました。そのドラマを多くの鮎釣りファンに伝え、残したい。そんな思いで今回のサイトを作りました。またご意見をお聞かせいただければ幸いです。このような機会を与えていただいたSHIMANO様、そして魅せてくれた24名の選手に感謝いたします。